若き聖者の悩み

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「 師 」 シュリ・ラーマクリシュナは、のどの癌を患い、ダクシネシュワル寺院を去って、コシポル・ガーデンで静養していた。「 ナレンドラ 」とは、若きスワミ・ヴィヴェーカーナンダ。彼は当時、父を亡くし、家計に困窮していた。「 M 」とは、『 ラーマ・クリシュナの福音 』の筆者・マヘンドラナート・グプタ。

ナレンドラが到着した。
ときどき、師は彼を眺めては微笑なさった。
Mにはその日、彼のこの愛弟子への愛は量りしれぬもののように見えた。
彼はMに向かって身ぶりで、ナレンドラは泣いていたのだよ、とお示しになった。
それから、しばらくじっとしておられた。
また身ぶりで、ナレンドラは家からここまでくる道中ずっと泣いていたのだ、とお示しになった。

誰も、ものを言わなかった。

ナレンドラが沈黙を破った。
ナレンドラ 「 私は、きょうはあそこに行こうと考えてまいりました 」
師 「 どこに? 」
ナレンドラ 「 ダクシネシュワルにです。ベルの木の下で火をたいて瞑想しようと思います 」
師 「 いや、火薬庫の役人がそれは許さないだろう。パンチャヴァティはいい場所だ。
多くのサードゥたちがあそこでジャパや瞑想をした。だがあそこはたいそう寒い。それにあの場所は暗くもある 」

またひととき、皆は黙ってすわっていた。

師(ナレンドラに、微笑して)「(法律の)勉強をつづけるつもりはないのか 」
ナレンドラ(師とMを見ながら) 「 今までに学んだことを、全部忘れさせてくれる薬がもし見つかったら、
私はさぞホッとするでしょう 」
やはり部屋の中にいた年長のゴパールが言った。
「 私がナレンドラについてまいります 」と。

カリパダ・ゴーシュがシュリ・ラーマクリシュナにと、ブドウを一箱持ってきていた。
それは師のそばに置いてあった。
師はいくらかをナレンドラに与え、残りを、信者たちが拾うように床の上におまきになった。

夕方だった。
ナレンドラは階下の一室にすわっていた。
彼はタバコを吸いながら、Mに話していた。
他には誰もいなかった。

ナレンドラ 「 私はこの土曜日にここで瞑想していたのですが、
そのときに突然、ハートに奇妙な感じを経験しました 」
M 「 それはクンダリニの目覚めざめだったのです 」
ナレンドラ 「 おそらくそうだったのでしょう。イダーとピンガラーの神経をはっきりと知覚しました。
それでハズラーに、胸にさわってみてくれるように頼みました。
昨日、私は彼(師)にお目にかかって、そのことをお話ししました。
私は申し上げたのです。
『他の人たちは、それぞれにさとりを得ました。私にもどうぞ何かをください。
皆が成功したというのに、私だけがなぜ満たされないままでいるのでございますか!』と 」

M 「 彼は何とおっしゃいましたか 」
ナレンドラ 「 こうおっしゃいました。
『お前はまず、家庭の問題を片づけなければいけないよ。
それが出来てからおいで。何でもあげよう。何が欲しいのかね』と。

私は、『三日間か四日間つづけて、サマーディにひたりきりでいたい、というのが念願でございます。
少量の食物をとりにほんのときたま感覚世界に下りてくるだけで』とお答えしました。
すると、彼がおっしゃるには、
『お前はずいぶん心の小さい人間だね。そんなことよりもっと高い境地があるのだよ。
「在りと在るすべてのものはおん身」──この歌を歌うのはお前ではないか』
と 」

M 「 そうです。彼(師)はつねに、サマーディから下りてくると、
この宇宙、生きもの、および存在するすべてのものになっておられるのは神御自身である、
ということが見えるとおっしゃいます。
イシュワラコティ(ラーマクリシュナによると、神の化身か、化身の一部の性質をもって生まれてくるもの)たちだけが、
そのような境地に達することができるのです。
普通の人間は、サマーディに入ることができるのが精いっぱい、その状態から下りてくることはできません 」

ナレンドラ 「 彼(師)はおっしゃいました。
『家庭の問題を片づけてからおいで。お前はサマーディよりも高い境地に到着するだろう』と。
私は今朝、家に帰りました。
家の者たちは、『なぜ浮浪者のようにうろつきまわっているのか。
法律試験も迫っているのに少しも勉強には身を入れない。あてもなくさまよい歩いて』と言って、怒りました 」

M 「 母君は何かおっしゃいましたか 」
ナレンドラ 「 いいえ、彼女はただ、私にものを食べさせることに一生懸命でした。
私にシカの肉をくれました。私は少しだけ食べました。肉は食べたくなかったのですけれど」
M 「 そしてそれから? 」

ナレンドラ 「 私は祖母のところにある、自分の書斎に行きました。
ものを読もうと努力していますと、勉強するのが非常に恐ろしいことででもあるかのような、強い恐怖心に捉えられました。
私のハートは、内部で苦闘しました。
私はワッと泣きだしました。
生まれてからまだ、あんなに激しく泣いたことはありませんでした。
私は書物をすてて逃げ出しました。
街々を走り抜けました。
靴は足から脱げてしまいましたが、どこで脱げたのかわかりませんでした。
干し草の山を走り抜けたので、全身に干し草をかぶりました。
私はこうして、コシポルまでの道を走り続けたのです 」

ナレンドラは数分間沈黙していたが、やがて話を続けた。

ナレンドラ 「 ヴィヴェーカーチュダーマニを読んでから、私は非常に気落ちしているのです。
その中で、(著者)シャンカラーチャーリヤは、
莫大なタパシャー(行)と幸運とによってはじめて、これら三つのもの、
つまり、人間に生まれること、解脱への願望、および偉大な魂の加護は得られるのだ、と言っています。
私は思いました、『私は間違いなく、この三つを全部得ているのだ。
大きなタパシャーによってまた、解脱への願望を抱いている。
そして大きなタパシャーにより、こんなにも偉大な魂の知遇を得たのだ』と 」
M 「 ああ! 」
ナレンドラ 「 私はもはや、世間には心を惹かれません。
世間に生きる人々と交わっても、楽しいとは思いません。
もちろん、一、二の信者たちとの場合は別ですが 」

ナレンドラはふたたび沈黙した。
強烈な放棄の火が、彼の内部で燃えていた。
彼の魂は、神のヴィジョンを求めて落ち着かないのだった。
彼はまた話をはじめた。

ナレンドラ(Mに)「 あなたは平安を得ていらっしゃる。だが私の魂は落ち着かないのです。
あなたは本当に恵まれていらっしゃる 」

Mは答えず、黙って座っていた。
彼は心中に思った、
「 シュリ・ラーマクリシュナは、人は神に恋こがれなければだめだ、
それで初めて、神の御姿を見ることもできるとおっしゃった 」


日が暮れるとすぐ、Mは二階に行った。
シュリ・ラーマクリシュナは眠っておられた。

『 ラーマクリシュナの福音 』 1024 頁

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by yogabeaware | 2011-05-29 09:35 | ヴィヴェーカーナンダ